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今月の4コマ漫画はお子さんの看病が必要なため、急に休まないといけなくなったママさんドライバーに代わり、代走してくれる頼もしい事務員(元ドライバー)がいるのって運送会社としては本当に武器になりますね。さてさて、今月も年次有給休暇についてのお話をしようと思います。
今回は使用者側の時季変更権の限界について解説します。就業規則において、シフト制の会社であれば特にシフト決定後の従業員からの急な年次有給休暇に対する時季指定権は可能、なぜなら、こうした年次有給休暇申請は原則的に事後申請の要素が強く、使用者側の時季変更権の行使が可能となります。しかし、会社側(特に中小零細運送企業にありがち)がよく勘違いしているのが、急な配送が入った際などに発生するシフトの急な変更で年次有給休暇を予め時季指定していたドライバーさんに時季変更を働きかける会社もあります。会社側の理屈としては、急な仕事を断ると、次の仕事に響くので断れないから何とか休暇時季を変更してドライバーに対応してほしいと思うようですが、そもそもカツカツの人員配置(人員採用計画に難がある)である場合、会社側の人員配置不備により、時季変更権を行使できないというのが通説となっていますので、会社は注意しましょう。したがって、会社は余剰人員の確保には力を入れておいた方が良いです。
このように会社側の不断の努力が必要となる年次有給休暇の時季変更権ですが、「令和6年2月28日、東京高裁判決」は非常に興味深い判決を出しましたので、併せて紹介します。会社は、前月20日までに年休の申請をさせ、25日に翌月の勤務割を掲示していたが、最終的なシフトは各勤務日の5日前に出す日別勤務指定表で確定させていた。従業員は勤務日の5日前にならなければ、時季変更権を行使されるかどうかが分からない運用となっていた。一審の東京地方裁判所は、時季変更権行使の遅延と、人員不足の状態で時季変更権を行使した点を債務不履行と判断し、同社に計54万円の支払いを命じた。会社には、事業の正常な運営を妨げる事由の有無を判断するのに必要な合理的な期間内に時季変更権を行使する付随義務があったにもかかわらず、それを怠ったとしている。人員については、年休取得や休日勤務の命令の状況などから、恒常的な不足に陥っていたといわざるを得ないとも強調されました。
しかし、二審の同高裁は一転して、労働者らの請求をすべて棄却した。勤務日の5日前の時季変更権行使は合理性があり、人員不足の状態も認められないと判断したのです。時季変更権行使の時期については、会社の社会的使命を考慮要素としたようで、鉄道事業法が国土交通大臣に運行計画の変更を命じる権限を与えていることや、東海道新幹線の重要性を加味すると、会社には需要に応じた列車の運行確保が強く期待されていると指摘した。また、需要に応じて臨時列車の運行を設定する必要があるため、5日前というタイミングが、事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するのに必要な合理的期間を超えているとはいえないとしている。なお、人員不足については、会社が年間20日の年休取得を前提に、年度ごとに要員計画を立てていた点を重視されたということです。
この裁判例は鉄道会社という社会的使命という大義名分がある会社であることと年休の20日(法定上の単年度マックス付与日数)取得計画を立てていたということが会社側の勝利に大きく影響したのでしょう。一般貨物運送事業者は慢性的な人材不測の業界に身を置いていますが、多重下請け構造の撤廃や標準的運賃の最低運賃化などの施策を推進し、人件費に予算を割ける体力のある業界になってもらいたいです。そして、社会に欠かすことのできないライフラインを守りたいですね。
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